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冬眠
よるとひるとのけじめもない闇のなかですが。それでも夜はなおさら黒く。ひるまはぼんやり暗いのです。わたくしは大概は眠っていますが時には瞼をひらきます。それが夜なら黒い壁。ひるなら暗い壁が瞼にじかにふれてます。わたくしはまた眼をつぶります。眠ります。それでも呼吸はしています。していることを分ることは生そのものが分るようで地上の時には感じなかったさざなみのようなよろこびです。霙や雪をわたくしは。沁みてきて背中を濡らすそのことで知り眠っているときは殖える重たさで分ります。飢えはもうからだのなかで靄になり靄のぬくみさえ感じます。殆んど同じような土の深さに地球何億の同胞たちがみんな同じく飢餓の同盟を結び。みんな同じく苦痛でなく。天然の。ぬくみのなかのよるひるをおくっていることを考えるとひとりでに微笑が湧いたりもするのです。この現実は。現実というよりは夢そのもののような気がします。わたくしたちのひとりひとりのその夢は。大きな夢のなかでの小さい小さい粒粒で。その粒粒が夢の細胞かなんかのような気がします。わたくしたちの同胞がどれだけ地球にいるのだか到底わたくしには分りませんが。もりあおがえるだってピパだってみんなおなじく土の中で眼をとじ生きていることの。失礼ですがこの厖漠と愛とを考えますとまるで宗教なんかのようで。わたくしたちのからだの色まで変わったのではないかとさえも思えます。世界はどのように動いているか。それは土の中にはいった頃は百舌鳥の鳴き声。ちかごろは乗合バスのひびきなどで少しは分る気がします。けれどもわたくしと同じように大きな夢のなかにじっと生きていることを信じさせます。食べることを断ち暗闇で僅かに稀薄な空気だけで生きていることは。それこそ富士山のように大きな忍耐かもしれませんが。この忍耐が共通なら。そして共通であることから。ぼんやりそれが愛の方向に移行します。事実わたくしたちが共に生きていることをほんとうに感じますのは。共共に生の歓喜を歌い合った地上の春や夏ではなくて。この暗闇のなかでです。近頃は一年の中のどの月なのか。それははっきりしませんが。寒さの度合いのうすらぎが一つの傾きをもってきました。もうすぐ自然に。わたくしの頭が。わたくしの四肢が。むっくり起きあがる時がくる。その時は地球億万のわたくしたちがむっくり起きあがる時なのです。その時がそろそろ近くなりました。わたくしの瞼の壁の黒さからいまは恐らく夜ですが。長い長いひとすじの。天の飛行機のじゅずなりの爆音がきこえてきます。わたくしたちは実際にじゅずつなぎの紐を生み出すでしょう。まぶしい春の外気のなかで。ああもうそれも間近かです。 (詩集「天」より) |
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